― 瀬戸内国際芸術祭の半日旅 ―

10月秋晴れの穏やかな日。

高松港からフェリーに乗り、瀬戸内国際芸術祭の会場のひとつ「女木島(めぎじま)」へ向かいました。

約20分の船旅。デッキに出ると、潮風が心地よく、遠くに浮かぶ島々が少しずつ近づいていくのが見えます。

この小さな島は、昔話「桃太郎」に登場する“鬼ヶ島”のモデルともいわれている場所。

島の中央には、実際に「鬼ヶ島大洞窟」と呼ばれる洞窟があり、観光スポットとして人気を集めています。

島に到着して最初に向かったのは、鬼ヶ島大洞窟。

入り口からひんやりとした空気が流れ込み、奥へ進むほどに静寂が増していきます。

「本当に鬼が住んでいたかもしれない」と思わせるような空間でした。

洞窟を抜けて外の光を浴びた瞬間、

“現実の世界に戻ってきた”ような感覚があり、

そこから始まるアートの旅がより特別なものに感じられました。

港の方へ戻る途中、島の静けさが心地よく感じられました。

人の気配はあるのに、どこかゆっくり時間が流れているような不思議な空気。

そんな中で出会ったのが、《メコチャン》。

小さな建物の中に広がる、カラフルで少し不思議な世界。

一歩足を踏み入れると、絵本の中に迷い込んだような気持ちになりました。

どこか懐かしくて、でも少し切ない。

「島の時間」と「子どものころの記憶」が重なるような空間でした。

次に訪れたのは、《不在の存在》。

タイトルの通り、そこには「誰もいないのに、誰かがいるような」空間が広がっていました。

作品を見ながら、

“存在するとは何か”

“いないということも、何かを伝えているのではないか”

そんなことを考えさせられました。

作品を巡りながら、港の方へとゆっくり歩いていく。

道端には猫がのんびり昼寝していて、時折観光客に目を向けるだけ。

穏やかな時間が流れていました。

夕方のフェリーに乗るころ、空がオレンジ色に染まりはじめていました。

朝のワクワクとは違う、少し名残惜しい気持ち。

アートを見たというより、“島そのものを感じた半日”だったと思います。

女木島には、派手さはないけれど、

静かで、深く、心に残る時間が流れていました。

またいつか、違う季節の女木島を訪れてみたいです。

瀬戸内国際芸術祭の魅力は、アート作品だけでなく、

その土地の空気・人・時間すべてを感じられるところにあります。

女木島で過ごした1日は、

「芸術」と「自然」が静かに溶け合う、心豊かな体験になりました。